『LV0の神殺し』の発売を記念し、
作品を未読の方でも楽しめる
ショートストーリーを大公開!
ここでしか読めない物語をお楽しみください――!
『LV0の神殺し』
星月子猫先生書き下ろしショートストーリー
「本編の前日譚」
「聞いてますかぁ~!? 聞いてるんですかぁ!?」
「聞いてませぇ~ん! レベルが低すぎて耳が詰まってるので聞こえませぇ~ん!」
とある晴れた昼下がり、辺境の村に住むレベル0の農民である俺、ユンケル・プールは畑仕事を終えて、自宅のリビングでゆっくりとお茶をすすっていた。
だがその平和は僅か二分で壊される。
そう、ドアを破壊せんばかりの勢いで、隣の家に住む幼馴染みが押しかけてきたからだ。
「昨日、魔物をどうして倒し損ねたか、ちゃんと考えないといつまで経っても倒せないよ?」
突然家にやってきた彼女の名前はリューネ・ミストパック。
辺境の村の出にもかかわらず、貴族様たちが開催しているようなパーティーに参加しても遜色のない恵まれた容姿を持った俺の幼馴染み。
今日も艶やかな長い赤髪を編んでおさげにし、街に出かけるわけでもないのにバッチリとお洒落を決めてきている。
黒髪で平凡な容姿、そして古ぼけた麻服に身を包んだ俺とは大違いだ。
「俺のレベルが0だから倒せなかった。はい論破、反省会終了ぉ~」
「終了させませぇ~ん」
「させろ」
そんなリューネがさっきから、俺に反省会をしようとしつこく迫ってくる。
というのも昨日、この村の近くの森に住まうミノタウロスを、俺が倒し損ねたからだ。
本来であればレベル10が三人集まってようやく倒せるようになる魔物に、どうしてレベル0の俺が挑んだのかという話だが、どれだけ魔物を倒しても俺のレベルが一向に上がらないため、弱い魔物ではなく、強い魔物を倒せばレベルが上がるのではないかと考えて挑んだのだ。
だがレベル0の俺では、ミノタウロスにまともなダメージを与えられるわけもなく、死闘の末に命からがら逃げてきたというのが事の顛末。
「ユンケルでも通用する攻撃を考えればいいのよ。それさえクリアできれば、ユンケルなら倒せるはずよ! あのミノタウロスを相手に善戦してたんだから!」
そう言ってくれるのは嬉しいが、死なないようにミノタウロスの攻撃を必死でちょこまかと避けていただけっていう。
「そりゃレベル14のゴリゴリマッチョのお前は簡単に言えるけどさ」
「んな!? どこがよ! 私は別に筋肉質じゃありません! 筋肉質なのはユンケルでしょ!」
「その筋肉質な俺より力が強いお前はなんなのって話」
レベル差というのは残酷だ。
どれだけ身体を鍛えても、リューネのような高レベルの人間にはどうあがいても強さで追いつけないのだから。
故に俺はいつも、力押しではなく、戦う相手の特性を念入りに調べ、戦略を立てて慎重に臆病に戦い続けてきた。そうしないと死んでしまうからだ。
……とにかく俺は強くなりたい。レベルさえ上がれば、レベル0なのに戦術と技術を駆使して魔物と渡り合えている俺はきっと誰よりも強くなれるはずなのだ。
ミノタウロスを倒せばきっと俺のレベルも上がる。…………倒せさえすれば。
「俺でも通用する攻撃か……」
そんなことを考えていたら、俺も少しヤル気が出てきたので真面目に考えてみる。
しかし考えれば考えるほど、どうしようもなくて笑ってしまいそうになる。レベル0の俺には、通用する攻撃を与える以前に、攻撃を仕掛けるだけでも命懸けだからだ。
「いや待てよ?」
そこで一つのアイデアが浮かぶ。
「何か思いついたの?」
「ちょっとな」
俺でも通用する攻撃がわからないのであれば、通用するまで試せばいい。
その環境をまず整えれば……そう考えて、俺は笑みを浮かべた。
「よし早速行ってみるか」
「本当!? 私も一緒に行くね!」
レベル0の戦いは厳しい。だが決して魔物も無敵ではない。
倒せないからと諦めるのではなく、倒せる方法を捻りだす。それが俺の戦い方である。
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